市の病院問題の行方は?医療関係者に論議の輪


 小樽市の最重要課題となっている新市立病院建設で、国のガイドラインが11月に発表されて以来、市内では、医療関係者たちの動きもにわかに活発になり始めている。
 新病院建設問題では、市はこれまで、小樽市医師会や市内民間3病院(小樽協会病院・小樽掖済会病院・済生会小樽病院)などとは、実質的な話し合いを行ったことはなかった。
 これが、ガイドラインの発表とともに、12月に入り、山田勝麿市長は、市内の民間3病院を訪問し、これまでの経過や基本設計中断と土地購入の見送りなどについて懇談した。いままで話し合いを行ってこなかったのに、突然の市長訪問に病院側には、その意図を図りかね、困惑が広がった。
 病院側は、「市として、地域のためにどう考えているのかの話はなかった。民間病院の私達にどうして欲しいのか説明がなく、懇談に来たというだけと感じている。状況報告だけだった。具体的なものはない。官と民が協力した方が良いなどの提案をしたが、そうですかと言うだけだった。周産期や救急医療などの役割、どんなネットワークになるのだろうか。市はどう進めていくのか」
 「医療機器の起債が下りなければ、リースでも取り入れたいと言っていた。今後については、市内には、病院が多く恵まれており、市としても規模も考えなきゃいけないので、なんらかの協力を頂きたいと言われた。新聞報道などの強気な姿勢ではないと感じた」
 「土地購入はダメで、基本設計は頓挫したとの報告に来ただけと感じている。市長が来るということで、何かあるのかなと思っていたが、どんな目的なのか全く分からなかった。新病院開院が遅れるという報告だけだった」と話していた。
 12月26日(水)19:00からは、市医師会と市議会厚生常任委員会・病院調査特別委員会との懇談会が、医師会館で行われた。この懇談会の模様を出席者に確認したところ、主なテーマは、急病センターと市立病院だった。
 急病センターについては、その経営状態につき、医師会側から、「患者減少と診療報酬改定の予想できない事態で、急病センターの収入が落ち込み、医師会側の経営努力ではまかないきれない赤字となっている。本来自治体が責任をもつべき救急医療を委託するのに指定管理者制度はふさわしくない。医師会はこの事業で儲けるつもりはないので、利益が出る条件は必要ない。赤字補填は小樽市とすでに契約時に盛り込んである」との指摘があった。
 また、運営についても、「全国的に進行している医師不足から、現在深夜帯の派遣医師の確保が非常に困難となっており、綱渡り的な運営となっている。北海道内では小樽市は非常に手厚い急病センター運営をしている。もっとも営業時間が長い。小樽全体の医療体制を考えた上で、質、経費、受診機会いずれが重要と考えるのか今後協議したい」との話があった。
 これに対し、議員からは、「急病センターは、今後数年で破綻する可能性もあるのではないか。受診機会を確保することを最優先すべきである。指定管理者制度はふさわしくない制度であった。指定管理者制度とするとしても結果として誤った予測をもとに予算が組まれており、早急に契約額の見直しなどを行い、赤字補填が不要な金額とすべきである」などの意見が出された。
 市立病院については、医師会から、「平成15年から市当局とは断続的に協議しているが、市は基本構想を固守するばかりで現実に即応した政策変更を全く考えないため、実質的に協議してきたとはいえない状態である」。
 市立病院の再建統合は小樽市が行うべき市民サービスの一部であり、小樽市全体の医療体制を考慮したものであるべき。そのために小樽市は医師会、公的な病院などと十分な協議を行い意見調整、役割分担の明確化などを計るべきである。
 建築統合に反対したことは一度もなく、むしろ速やかな再建を願っている。ただし必ずしも市立病院でなければならないとは考えていない。規模は現在のような総花的な病院ではなく、特徴ある診療科を選択し、市内の医療機関の役割が補完されるように考慮すべき。
 小樽市の将来の人口縮小や入院期間短縮による入院患者減少も見越し相当に大胆な規模の縮小が必要。400床以上は論外である」と指摘した。
 さらに最近の医療情勢の変化から、「速やかな再建がなければ他地域でみられているような病院崩壊といった緊急事態も予想される。ガイドラインに従えば市立小樽病院は廃院か民間委託、民間移譲などしかあり得ない。財政的な援助が期待できることも考慮すべきである。”全摘”は根本的な解決策とはならず、もっと根本的な解決が必要。
 3月を待たずすぐに財政再建策、新しい運営の方向性を策定すべきである。基本構想を固守した現在の再建統合案はまったく現状にあっていないし、基本設計の中断という実質的な白紙撤回により、今後まったく新しい構想を立てる必要がある」と述べたという。
 議員からは、「市当局は基本構想にいまだ固執し続けておりその頑迷な態度が建設時期を遅らせることになっている。
 すでに基本構想に基づく再建・統合は白紙になったのだから、築港地区での建設を再検討し、量徳小なども含め建設候補地とすべき。
 再検討に向け医師会は積極的に発言してほしい。
 市当局はかつてのような何が何でも再建統合するし、それが必要であり、起債も可能だとする強硬意見は聞かれなくなり、今回発表された総務省のガイドラインや北海道の地域医療計画などを3月まで見守ると言い始め、トーンダウンしている。
 3月まで様子を見るのでなく今改革に手をつけるべきだし、またよい機会でもある。
 市当局に任せておいては病院は医師もさらに減少し、崩壊してしまう可能性もある」などの意見が出た。
 小樽市医師会の津田哲哉副会長は、「今回の話し合いは、年末のギリギリでの話し合いとなり、国のガイドラインが出たタイミングと重なった。市は、新市立病院の基本設計を中断したのだから、今の計画では建たないことになる。国のガイドラインを受け、一歩進んで、今までと違った方向をとるべきではないか。新病院は、診療科目を特化し、規模の縮小や経営形態を変えることを考えて、地域医療の役割分担を徹底すべきだ。議員との懇談会は今後も続けていきたい」と話している。
 厚生常任委員会・北野義紀委員長は、「今回は、急病センターと新市立病院、周産期センターについての話が中心となった。市立病院については、医師としての立場から、このままやっていけるのかどうかを専門家として心配していた。医療の分からない人がやっている新病院計画についても、市長にまかせてしまっていることを心配していた。しかし、今回、医師会と議会側とが率直に問題点を話し合えたのは、大して良かった。大いに実りある懇談会だった」と評価していた。
 27日(木)には、民主党北海道4区総支部(代表鉢呂吉雄衆議院議員)の調査団による、小樽市長や小樽病院長からのヒアリングが行われた。調査の内容は、病院経営の状況や地域医療圏における位置づけ、診療報酬引き下げ等の影響など。
 「ガイドラインの特例債の創設は、20年度に限って行うとしている。平成15年以降の医師不足だけでなく、不良債務の44億円解消も見込んで考えているのか」と鉢呂議員が質問。
 これに対し、「44億円は昔のものだからどうなるのだろうか。医師不足の不採算で、6~7億円を一般会計で上積みしている。昔の44億円は難しいと聞いている。15年から17年まで毎年7億円で合計20億円以上一般会計から出ているので、半分以上は対象になるのではないか。昔の不良債務の44億円は増やしてはいない」と山田市長が答えた。
 経営形態の見直しについては、「独立行政法人化を検討しようとしている」と答えた。
 また、「手稲の渓仁会を先日調査したが、医師は200人、研修医は20人もいる。さらに、ドクターヘリで北大や医大から医師が派遣されるようになっている。市立病院と渓仁会のネットワーク化が良いのでは」(鉢呂議員)と尋ねたのに対し、「うちも来年4月から、ようやく1人研修医が来る」(市長)と答え、病院事務局は、「市立病院にも内科の専門医がいて患者の対応が出来ていたが、ここ最近では、専門医がいなくなった。消化器、呼吸器しかなくなって、その隙間を埋めているのが院長で、入院までは対応出来ない。札幌の方に小樽の市民が通うのをよく聞くし、多くなっている。これは、重い糖尿病患者は小樽で見れない状況で、手稲の大きな病院に流れている。二次救急を受けることになっているが、医師の数が少なく受け入れられない。うちが出来なければ、渓仁会に行くしかない」(小軽米文仁事務局長)と、小樽病院の現状の厳しさを述べていた。
 新市立病院建設での基本設計の中断と用地購入の先送りによる市の方向転換に、国のガイドラインが大きな影響を及ぼしている。市内の医療関係者の間でも、今後の小樽の地域医療や新病院の行方に大きな関心が寄せられており、次第に論議の輪が広がりつつある。
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