「『蟹工船』の時代ープロレタリア文学とモダニティ」 文学館特別展


kamei.jpg 文芸評論家・プロレタリア文学運動の理論家として活動した池田寿夫(1906-1944)の旧蔵書約700点が、市立小樽文学館(色内1・亀井秀雄館長)に寄贈され、同館は、7月4日(土)から8月9日(日)まで、この旧蔵書などを紹介する特別展を開催する。
 池田寿夫は、昭和時代前期の文芸評論家。1906(明治39)年8月15日生まれ。東京帝大在学中に「大学左派」を編集。昭和3年に全日本無産者芸術連盟、5年に日本プロレタリア文化連盟に加わった。この後、満州(中国東北部)にわたって1944(昭和19)年11月9日に死去した。
 同館によると、小林多喜二や宮本顕治が主張する「革命の芸術」に傾きながら、前衛的映画理論と文学論との統合を試みるなど、「芸術の革命」に強い関心を寄せていたことが、蔵書から読み取れるという。
 亀井館長は、「700の蔵書が良く残った。プロレタリア運動は治安維持法の対象になり、池田は地下に潜ったが、当時の警察に逮捕された。この時に蔵書は没収されてもおかしくないはずなのに、700もの蔵書がどういうわけか残った。用心な人で、地下に潜る時に警察に目をつけられない知人や親戚に預けたのかもしれない。それでも没収されないのは奇跡的なこと」と話す。
 これらの蔵書は、「遺族が信頼出来る人に寄贈したいと探していた時に、文学館と縁があって寄贈を受けた」という。
 蔵書の中には、ニュースや会議資料をまとめた冊子があり、この中に小林多喜二労農葬の運動を行っていた様子を記すメモが挟まれている。「当時の運動実態が分かる生の資料で、全国の文学館や関係者からするとよだれの出るようなもの」(亀井館長)と話す。

 「貴重な資料を頂けることは願ってもない機会で、これを記念するため」と、7月4日(土)から8月9日(日)まで、特別展「『蟹工船』の時代ープロレタリア文学とモダニティ(池田寿夫旧蔵書による)」を開催する。一般300円、高校生・70歳以上の市内在住者150円、小中学生無料。
 この特別展に合わせて、6月6日(土)・27日(土)・7月18日(土)には、亀井館長を講師に迎える特別講座の開催も予定されている。
 第1回は、「プロレタリア文学への眼差し1-遠景の小林多喜二」。第2回は、「近景の小林多喜二」。サイレント映画からトーキー映画に変わった時期の論議に焦点を合わせながら、モダニズムの一環としてプロレタリア文学を捉え直し、プロレタリア文学の運動家がモダニズムにどのように対応したかを小林多喜二に即して再考する。
 第3回は、「知られざるプロレタリア文学史ー池田寿夫旧蔵書より」。いずれも14:00~15:30。会場は、同館1階研修室。無料。