早川三代治特別展 経済学者・作家の生涯辿る


 小樽出身の経済学者で小説家、二つの分野を生きた早川三代治(1895~1962)の生涯を紹介する、市立小樽文学館(色内1)の特別展「早川三代治展」が、5月21日(土)から7月24日(日)まで開かれている。
Mhayakawa1.jpg ドイツ留学と帰国後の演劇に関する作品を中心に、小樽商科大学収蔵の早川三代治文庫や遺族からの書簡や草稿、絵画や写真など貴重な資料200点を展示紹介。
 早川は、影響を受けた有島武郎に師事し、北海道の農民をテーマにした作家と紹介されてきたが、さらなる調査により、早川像が大幅に改められ、幅広く活躍した人物であったことが分かり、改めて早川について紹介する特別展を企画。
 少年時代や有島武郎との出会い、ドイツ留学・ドイツ演劇の影響、島崎藤村との縁と戯曲創作、晩年の挑戦に分け、早川の足跡を辿る。
 小樽区入舟町に生まれ、家業は、精米・精油・醤油醸造、紙文具などの商取引や農地の地主でもあった。
Mhayakawa2.jpg 東北帝国大学農科大学(のち北海道大学)に学び、有島武郎に師事し、小説・戯曲を発表。
卒業後は、経済学研究のためドイツに留学(大正10年~14年1月)。ボンやベルリンで経済学を学ぶ。ドイツを襲ったハイパーインフレを経験し、演劇と音楽に出会い影響を受ける。
 帰国後に、北海道帝国大学農学部の講師となり、のちに教授となる。経済学史や景気変動論、工業経済学を担当した。昭和11年に退職し、実家の事情により実家を継ぐ。
 その傍ら、北海道市町村所得データを克明に調査分析し、終戦後は、日本人初の米国「エコノメトリカ」誌にパレート所得分布法則研究の論文を掲載。文学の創作も並行して行い、昭和23年、小樽経済専門学校教授に就任し、翌年、小樽商科大学教授となる。
 昭和32年に早稲田大学教育学部教授となり東京に移住。長期休暇中に小樽に戻る生活となる。昭和37年8月、小樽にて脳梗塞で67歳の生涯を閉じる。
 会場では、当時のエッセイや、留学時代の作品などを発表。演劇と音楽に出会い、観劇のパンフレットの一部を紹介している。
Mhayakawa3.jpg 戯曲は、昭和初期から8年にかけて集中的に執筆し、戯曲集に収録されたもので17本あった。昭和8年12月29日から31日に新劇座で公演された初稿「新しき縄」がある。主演はおやまの花柳章太郎氏。島崎藤村も絶賛した作品でもある。
 他にも、終戦直後の小樽の風景を描いたクレヨン画や、ベルリン留学中のイタリアスケッチ旅行(大正13年)での風景画、戯曲「白い塔」に関する舞台のイメージ画や照明設計も残されている。
 小樽は自分を育ててくれた大切な場所であることを綴った随筆「養いの地」を終戦後に発表している。晩年は、有島武郎について長編小説を書こうと構成メモが残された。完成すれば大作となる作品であった。
 同館・亀井志乃学芸員は、「小樽で生まれて育った人物として幅広い活動をしている。インテリジェンスな面が高い方で、イマジネーションも豊かで一方では緻密な思考力が必要な数理経済学をこなし、ものすごく多才で深い人物が小樽にいたことを、皆さんに知っていただきたい」と話した。
 同時に、小樽商科大学附属図書館特別展示「早川三代治展」”格差問題研究の先駆者”をテーマに、7月24日(日)まで開催している。
 早川三代治展 インターナショナルな知的表現者 5月21日(土)〜7月24日(日)
 市立小樽文学館(色内1) 7月18日を除く月曜日・7月19日(火)・20日(水)休館
 入館料:一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料
 早川三代治展・記念講演会 7月1日(金)18:00〜20:00
 小樽商科大学附属図書館(緑) 聴講無料
 講師 江頭進氏(小樽商科大学附属図書館館長・小樽商科大学副学長)
    亀井志乃氏(小樽文学館主幹学芸員)
 小樽文学館特別展「早川三代治展」
 小樽商科大学附属図書館特別展示会
 関連記事