春から初夏にかけて、小樽の石狩湾では、「高島おばけ」と呼ばれる上位蜃気楼が数回観測され、研究者や愛好家の間では話題となっている。この上位蜃気楼を、昨年6月8日に見事に捉えた写真が、朝日新聞社2011年「読者の新聞写真」の年間選考で、北海道の代表作に選ばれ、1月末にメダルが授与された。受賞したのは、札幌在住のパソコンスクール講師・柴田進さん(54)。
柴田さんは、北海道・東北蜃気楼研究会(大鐘卓哉会長)に所属し、「高島おばけ」の発生する条件を独自に研究している。蜃気楼を追いかけ、シーズン初観測時や最大規模の蜃気楼の第一発見者となり「石狩湾蜃気楼情報ネットワーク(登録者に発生時に情報がメールで配信されるシステム)」で配信し、小樽での蜃気楼観測において大いに貢献している。
柴田さんが蜃気楼観測を始めたきっかけは、2004年に小樽の博物館で仕事をしていた頃、下位蜃気楼を見る機会があり、その様子を学芸員に話したところ、上位蜃気楼の存在を知り、その年に大規模蜃気楼に遭遇した。大変珍しく不思議な現象で、歪んだ鏡に映る像のようで、鏡がないのにどうして歪むのか知りたくなった。そして、熱心に気象データをチェックし、起こりやすいいくつかの条件を掴むことができた。4月末から6月末までの晴れた日、石狩湾に風速2〜3mの穏やかな南風が吹き、水温と気温の差が8℃、時間帯の多くは14:00から16:00だが、例外も多くある。蜃気楼シーズンは、常に気象情報にアンテナを張り巡らしている。
今回選ばれた写真は、昨年6月8日の15:10から15:20頃、観測した大規模蜃気楼。朝里海岸から祝津方面を見て、「高島岬が浮き上がり、沖行く漁船が何重にも重なって浮かびあがり、今までに見たことがない現象だった」と柴田さんは話す。
1846年5月に蝦夷地を探検した松浦武四郎は、西蝦夷日誌に「高島のおばけがでる。あれをみなさい。小さな点のような島と思えた岩礁が大きくなり、船のむしろの帆がとても大きな銀幕に変わり・・・」と記録されている。柴田さんはこの光景と同じだと感動し、夢中で撮影した思い出深い一枚となった。普段あまり見られない8km程度の近距離での蜃気楼だったことやあまり航行していない遠洋漁業船が通りかかるなど、偶然が重なり見事な光景を生み出した。観測後、柴田さんの画像や動画は、新聞やTVでも話題となった。
柴田さんは、「北海道の代表に選ばれて嬉しいの一言で、友達からも反響があった。蜃気楼の原因を追究するより、面白い現象や発生するごとに違う像の変化を見たい。岸に寄せる白波やサーファー、人物など、どのように見えるか、近距離での蜃気楼、変形太陽も見てみたい。実景から現象が起きて一部終始の動画を残したい」と、これからの蜃気楼への課題が多くあり、準備はもう始めている。
4月から始まる「高島おばけ」シーズンに、小樽の風物詩として、市民はもとより、観光客も交えて楽しむことが期待されている。