「覆水盆に返し、再検証を!」 長隆氏が小樽新病院で提言

 138億円もの豪華病院の建設で、5月23日(水)に、2度目の入札中止に追い込まれて、混乱の渦中にある小樽市と市議会に対し、公立病院改革ガイドラインの作成に携わった、長隆氏(東日本税理士法人代表社員・公認会計士)が、セミナーの講師として、折り良く24日(木)に札幌入りした機会を捉え、インタビューに応じて頂き、小樽の公立病院の在り方への提言を伺った。
0524osa.jpg 長隆氏は、総務省の「公立病院改革懇談会」の座長として、公立病院改革ガイドラインを策定。現在、全国の公立病院は、このガイドラインに沿って病院再生に取り組んでいる。日本の医療事情に最も精通しており、病院問題では第一人者として知られている。その見識の深さと、貴重な提言は、全国の各都市から改革委員会の委員長に要請され、いくつもの公立病院再生復活を果たしてきている。
 今回、長氏は、札幌市の(株)吉岡経営センターの「自治体経営ソリューションセミナー」の講師として、日帰りで来道した。講演のテーマは、「自治体病院再生〜検証!全国の成功事例」だった。参加者は、道会議員や道内の病院関係者が多く、根室や赤平などからも駆けつけていた。この講演の中には、小樽市の新病院に言及していることもあってか、小樽市議会の若手議員2人の姿も見られた。
 講演前後のインタビューやセミナーの中での話から、2度の入札中止となった小樽新市立病院への貴重な提言があった。
 長氏は「私は、小樽の病院問題では、多くの意見を言ってきたが、今回の2度の病院入札の中止で、最終段階に入ったと思う。市は元々、築港地区に病院を建てようとしていたが、その同じ場所に、現在、民間の済生会小樽病院が建設中だ。医師・看護師不足は、全国的なもので、豪華な新市立病院を造って医療機器を揃えても、医師が集まることは、絶対にありえない。豪華病院を造れば医師が来ると言うのは幻想だ。要は、実績が必要。
 小樽には、民間病院が3つ(済生会・協会・掖済会)もあり、これに大型の小樽市立新病院が加われば、医師・看護師の奪い合いとなるが、実績のある手稲の渓仁会病院には、勝てっこない。人口13万人の小樽市には、4つもの病院が並立することになるが、70万人口の練馬区には、2つの急性期病院しかない。人口減少、少子高齢化で、患者が減っている中で、小樽の病院が成り立っていけるか、医師確保ができるかは、極めて疑問だ。
 138億をかける小樽の新市立病院の巨額の償却ができるか。これからは、退職引当金も積まなければならなくなったので、さらに運営が難しくなる。小樽市は退職引当金がゼロなのだから、さらに苦境に立たせられる。患者数や病床利用率の大甘な見通しでは、開院早々からの破綻は目に見えている。小樽市の集団自殺となってしまい、夕張化が避けられなくなる。
 国は、官民の統合を進めており、小樽でも官民の統合しか生き残る道はない。元々、市は築港地区に建てようとしていたのだから、現在建設中の済生会に、脳外科と心臓外科の2つを医師・看護師ともども統合すれば良い。これで、重複する診療科のムダがなくなり、140億円のムダ使いもなくなり、双方にとって良い結果が生まれる。大手ゼネコンが仕切る工事では、地元業者が泣かされるのが通例で、地元経済がうるおうというのも幻想に近い。病院工事で使わぬ140億円を中心市街地の再生に投入するなどの策を立てれば、地元もうるおうことになる。何で分割発注をするのか。設計施工の一括発注なら半額でもできると、小樽で講演した遠藤誠作氏は言っている。関連記事
 2度の入札の失敗は、前代未聞の”快挙”をなした。もう一度、覆水盆に返す決意で、市議会が決議して、検証すべきだ。官民統合の参考例は、桑名市立病院がある。桑名市議会は、全員一致で決議し、市立病院を廃院にし、独立行政法人として、民間の山本総合病院に吸収合併された。これで、雇用と医師の確保が図られた。小樽の隣には、手稲や札幌に優秀な病院が多いし、結局、小樽市民もこれを利用しているのだし、電車に乗ればわずか20〜30分で高度医療が受けられるのだから、過疎地小樽が豪華病院を持つ必要はないと言える。ここで、頭の転換があれば、道は直に開けることになる。
 これからの方向性を決めるには、市議会の覚悟が必要だ。まさか市議会が入札中止を再開し、同じ轍を踏むとは思えないが、このまま突っ込めば、小樽市の集団自殺となってしまう。ここは、市議会も市民も頑張って良く考えることが必要だと思う」と、話して頂いた。