最後の児童文学ファンタジー大賞 受賞者なしで閉幕!

 非特定営利法人絵本・文学研究センター(工藤左千夫理事長)は、9月11日(日)10:00からオーセントホテル(稲穂)2階オーセントルームで、第28回目をもって最後となる児童文学ファンタジー大賞選考会を行った。

 

 過去最多の287作の応募があり、選考の結果、大賞も佳作や奨励賞もなく、最終回の幕を閉じた。

 

 同センターでは、臨床心理学者の故・河合卓雄さんの協力を得て、児童文化の新たな模索と後世に伝承しうる作品の創造を目指し、1994)平成6)年に全国から長編小説を公募し、国内でも珍しい文学賞を創設した。

 

 厳しい選考でも知られ、大賞は、1995(平成7)年第1回の梨木香歩さんの「裏庭」と1997(平成9)年第3回の伊藤遊さん「鬼の橋」の2作のみで、佳作13作と奨励賞24作が選ばれている。

 

 大賞発表から26年、該当する作品がないまま歳月が過ぎ、運営側の高齢化を理由に、今回が最終選考となった。

 

 選考会場には、斎藤惇夫選考委員長(同センター顧問)、工藤左千夫副委員長(同センター理事長)、藤田のぼる委員(日本児童文学者協会理事長・児童文学評論家)、中澤千磨夫氏(北海道文学館副理事長・同センター評議員)、茂木健一郎委員(脳科学者)、アーサー・ビナード委員(詩人)、立会人の越前谷幸平大賞運営委員長、山口博教大賞運営副委員長、大橋一弘大賞運営副委員長と、1次・2次選考に携わった正会員も集まり、公開審査が行われた。

 

 2021(令和3)年11月1日から2022(令和4)年3月31日に募集を行い、過去最多の応募総数287作の中から、1次選考通過12作・2次選考通過6作となり、3次選考通過は、織田りねん「島めぐり」・藤原道子「緑のちいさな竜」・森川聖子「風と風が出会うところ」の3作が残った。

 

 選考委員が1人ずつ作品について講評を述べ、2時間近くにわたりやり取りが続いた。

 

 「島めぐり」に関しては、場面でのプロセスが頭に入ってきて文章が上手い。子どもたちにも読んでほしい・児童文学の世界に参入してほしいとの高評価もあったが、工藤副委員長は大賞は無理だと断言し、最終的には選考委員の思いも一致した。

 

 同委員長は、「いままでなんとか最終候補作品から生まれないかとやってきたが、継続してきた努力と熱意には、2作品(大賞)しか選ばれなかった。その大賞作品に比べると及ばなかったため、この会としては選べなかった。

 

 無念ではあるが、せっかく主人公を創り上げたのだから、自分で再度挑戦してもらい、著者にお返ししたい。これからもファンタジーへ向かって応援していることは確か。終わりはやむなし」と話した。

 

 工藤副委員長は、「選考会はオープンでやっていて、一個人の選考委員の考えではなく、スタンダードに残る作品をいかに僕らが見つけるか、ずっとやってきたが、今回はそれに匹敵する作品がなかった。残念なこと」と述べた。

 

 茂木委員は、「選考会は東京ではできない。子どもは現実的で、ファンタジーを育む余地がない。本格的ファンタージ—が日本で育ちにくい風土になってきている」と述べた。

 

 受賞者には賞状の他、大賞には手島圭三郎オリジナル版画「冬の空」と副賞100万円、佳作には、同版画と賞金20万円、奨励賞には賞金5万円が贈られ、著作権は著者に属するとしている。

 

 ◎絵本・児童文学研究センター(外部)

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