佐藤 敏之マスター
自ら経営するコーヒー店の窓から、生まれ育った小樽の街を、35年間、見つめてきたマスター(57)。
目立つ看板を出さず、ひっそりと自宅の地下に店を構える。裸電球の温かい光に包まれるおしゃれな店内には、心地良いジャズが静かに流れる。豆販売がメインで、客席は6席だけ。オリジナルの「SATOH
BLEND(サトウブレンド)」の の香りが漂う。
「小学校1年の時に父親と行った喫茶店で、まだ子供だから、コーヒーを飲むのはやめろと言われたのに、飲んでみたらすごくまずくて嫌いになった。二十歳までは、飲まなかった」
上京し、喫茶店でアルバイトを始め、モカと出会い、その味に惚れた。「学歴もないし、資格もないし、人に使われるのも大嫌い。じゃあどうするかと考えていた時、当時、小樽にはなかったコーヒー豆を扱う専門店を出せば良いかと思い、札幌の専門店で3年間修行した」
小樽に戻り、稲穂の国道沿いに店を構えていたが、隣家からの火災で店舗が延焼。8年前に花園の自宅兼店舗で、新たに営業を再開した。
豆にこだわったオリジナルブレンドは、強く火を通し酸味をとった上品な味わい。「入れ方がどうのとか言われたこともあったが、ベースが良ければ、コーヒーメーカーでもなんでも美味しい」
「町の豆腐屋とか市場に来るような感覚で、小樽のお客さんが、豆焼けたかいと気軽に店を訪れ、買ってくれることが嬉しい。小樽の人だけで商売出来れば良いが、小樽市の人口減や量販店の進出などで、販路を広げなきゃいけないと考えている。インターネットは嫌いだが、食うためにはネットで売らなきゃいけないかな」
「小6の時に作った学級新聞で、小樽が大好き小樽を離れないと書いちゃったので、それを小樽に住み続ける理由にしている。将来医者になるとも書いたが、これにはなれなかったので、うそは嫌いだから、小樽に住み続けることだけは守りたい」
時折見せるするどい眼差しも、話すと優しい笑顔に変わる。長女の入園・入学式の時にしか剃ったことがない髭が似合うマスター。一杯400円のコーヒーが、心和む小樽時間を提供する。