「市が伐採するのは、一原有徳が愛したポプラ」 大畠氏が語る

 小樽市が、「小樽文学館・美術館再整備事業」として伐採を決めている4本のポプラ並木は、小樽在住で世界的に有名な版画家・一原有徳さん(99)がこよなく愛したポプラだったことが、長年親交がある画家で前市議会議員の大畠護さん(71)への取材から分かった。
 この整備事業は、1億4,630万8,000円をかけて、1階に多目的スペース(約160平米)を設置して3階の市民ギャラリーを移動し、3階に一原有徳さんのアトリエを再現する。現在の駐車場は、手宮線と一体化させる広場にするため、手宮線と庁舎の境に立つ塀を一部を残して取り壊し、敷地内に聳え立つ4本のポプラ並木は伐採することにしている。
 ポプラは、市分庁舎(旧小樽地方貯金局)が建設された 1952(昭和27)年以前から立っており、幹周は2m70cmもある。本社が依頼した樹木診断では、「容姿診断ではすべて『健全』のランクにあり、倒れる危険性は全くなく、伐採の必要性も全くなく、少なくとも50年は長生き出来る」との調査結果が出されている。
 しかし、市は、「倒れた場合の管理責任が問われる」の一点張りで、「樹木専門の医者」である樹木医の診断結果を受けても、方針は変えていない。「ポプラを伐採し、代わりにイタヤカエデを3本植えて市民の憩いの場にする」(市立小樽美術館)という。
 4本のポプラは、郵政建築の第一人者・小坂秀雄氏が、現在の市分庁舎(旧貯金局)設計の際に、吹き抜けの階段から色々な角度のポプラが楽しめるようにとの想いで残され、60年以上も経っている。小樽市は整備事業で、一原有徳さんのアトリエを再現しようとしている。一原さんは、17歳の時に貯金局に入局し、退職までの43年間、このポプラを見ながら勤務しており、深い想い入れがある。貯金局の地下室に職場公認の「秘密のアトリエ」を設けて絵画制作に励み、「国内外で高い評価を得るに至った」(市立文学館)という。
oohata.jpg 一原さんと長年にわたり親交を続けてきた画家で前市議会議員の大畠さんは、一原さんが、このポプラの木をこよなく愛していたことを語っており、「アトリエとポプラは一体のもので、このポプラがないアトリエなんて一原さんはいらないというと思う。このポプラは、なんとしても市民が守らなくてはいけない。自分も画家としてこのポプラを守りたい」と話してくれた。
 「市は、一原さんのアトリエを再現するというが、ポプラを切るのはちょっと待てよ。一原さんは、ご高齢で発言出来ないが、貯金局が建築されてからずっと勤務しており、一原さんが、愛したポプラを伐採するのは反対だ。この建物は、朝鮮動乱があった時、日本も物資のない時に最高の材料で建てられた。1階から3階まで吹き抜けで、当時としては本当に斬新で、建築した時に、ポプラが大きくなったら吹き抜けの階段から北海道を代表するポプラがすらっと見えるとの話を聞かされた時、一原さんは胸がざわざしたと言っていた。踊り場から見るポプラは、切っても切り離せないという想いを若い時から聞かされてきた。ポプラを切ると聞いた時、一原さんは反対するべやと思った。せっかく一原さんのアトリエを再現するのであれば、建物だけではなく、一原さんの意思も残さないと。ポプラを切ると言うならアトリエはいらないと言うかもしれない。それぐらいポプラを大事にしていた。
 貯金局の設計者には、設計の段階で吹き抜けから見るポプラがいいなと言う想いがあり、それは一原さんにもあった。一原さんの想いを残さないとね。アトリエを再現するなら、絶対ポプラを残すべき。老木なら仕方ないが、健康木なんだから。手宮線の沿線から、色々なところから見る角度で、色々な姿を見ることが出来る。みんな様々な想いがあり、一原さんのアトリエを再現するのに、ポプラを切るなんてないでしょ。一原さんがあんなに想いを馳せていたポプラを切るのは、それ整備じゃないでしょ。一原さんにとっては想い出深いポプラだ。有名な設計者が、窓から成木になったポプラの絵を描いていた。僕らも、美術館に行くと、エレベーターを使わないで、階段を上っていく時にポプラの景観が変わる姿を見ている。一原さんのアトリエを再現するなら、ポプラはアトリエの一部だ。
 市は、これから50年も大丈夫だというポプラを切るのに、一方では、市民の力を借りて植樹している。駐車場を広場にしたいというが、ポプラがあっても良いじゃないですか。ただ単に一原さんの想いだけでなく、設計者の気持ちもあるんですよ。北海道を代表するポプラが、ガラスの吹き抜けから眺められる。あそこにポプラがあるとないとでは、景色が全然違う。色々な角度から見られるのだから、ポプラを眺める人には色々な想いがある。教育上からも好ましくない。倒れる危険性があるというなら別ですよ。一原さんのアトリエと外の風景はセットだ」と、その想いを話してくれた。
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