2008年 ベストマスター

2008年12月のベストマスター
地酒専門店 酒商たかの・テイスティングバー 隠れ蔵

高野 泰光マスター

 酒歴40年。サンモール一番街の寿司屋通り角で、「酒商たかの・隠れ蔵」を経営する。全国200品種の酒を取り扱っている。

 ベンジー高野商事株式会社の代表取締役社長(61)。大卒後、緑町の実家の日用雑貨卸の二代目を引き継いだ。平成5年の100均ブームを機に、日用雑貨・青果・食品の100円ショップ「ベンジー」を小樽にオープン。

 “地域に根ざした店”を合言葉に、市民に格安商品を提供する。「卸売しか知らなかったので、大変だった。市場を回ったり、農家に足を運んだり、一番苦労したかな」と振り返る。今では、小樽市内に4店舗構え、従業員は40人になる。

 地酒専門店・酒商たかのは2年前にオープン。鹿児島の蔵の人と話している中で、「地酒専門店で大事に売ってくれないと卸せない」と言われたので、すぐに専門店をオープンすることにした。

 「お酒で日本と付くのは日本酒だけ。“日本酒は文化”だ。日本の伝統の米から作られ、杜氏の腕と蔵元の浪漫、ポリシーから出来上がる。酒屋がつぶれる時代に、地酒専門店を開くのかと反対もされたが、ベンジーでは安く酒を提供するだけで、うんちくを語ることが出来なかった」と語る。

 オープンしてすぐに、一度断られた鹿児島の酒造元に連絡したところ、「まさかやるとは思わなかった。すぐに酒を送ります」と快く応じてもらい、契約成立。特約店がないままの地酒専門店のオープンだったが、あれよあれよという間に、八海山や麒麟山、舞姫など名だたる日本酒の特約を取った。今では100品種の酒を販売する。

 「酒に関しては40年の歴史を語ることが出来る。全国各地の酒蔵の思いと味を伝えたい。飲んだことのないお酒を購入する時は、みんな僕の説明に騙されてしまうと思ったから、その人の好みの味を感じてもらうために2階にテイスティングバーを設けた。自分に合った酒、人に贈りたい酒を探してもらいたい」と、テイスティングバーでの試飲は、200品種にも及ぶ。1杯200円から1,000円で、有名・無名関係なく良い酒を置いている。

 ラッピングにもこだわりを持つ。地酒専門店を助けるため、妻がラッピング講師の免許を取得。「妻に助けてもらって、ちょっとおしゃれなラッピングに力を入れている。包装はかなりの武器になっている」

 100円ショップと地酒専門店の5店舗を経営しながら、小樽の街の活性化も目指している。「微力ながら小樽のため、小樽市民のために頑張っている。基本は、また来店してくれるリピーターが出来る店。商売というのは、やろうと思えば出来るが、リピーターに来てもらわないと中々儲けに繋がらない。儲けというのは、お客さんに喜んでもらって、満足してもらってついてくるもの。市民ばかりでなく、観光客にも親切にしようと心がけている。道案内でもなんでもする。そうすれば、その人たちもリピーターになってくれる」

 生まれ育った小樽で商売繁盛を目指し、小樽活性化の一助にも繋げようと日々奔走する。「小樽市民として、みんなにいらっしゃいませを伝えなきゃいけない」

地酒専門店 酒商たかの・テイスティングバー 隠れ蔵

小樽市稲穂1-1-6
営業時間10:00~22:00
定休日なし
0134-34-1100

2008年11月のベストマスター
bien cafe'(ビアンカフェ)

佐藤 敏之マスター

 自ら経営するコーヒー店の窓から、生まれ育った小樽の街を、35年間、見つめてきたマスター(57)。

 目立つ看板を出さず、ひっそりと自宅の地下に店を構える。裸電球の温かい光に包まれるおしゃれな店内には、心地良いジャズが静かに流れる。豆販売がメインで、客席は6席だけ。オリジナルの「SATOH
BLEND(サトウブレンド)」の の香りが漂う。

 「小学校1年の時に父親と行った喫茶店で、まだ子供だから、コーヒーを飲むのはやめろと言われたのに、飲んでみたらすごくまずくて嫌いになった。二十歳までは、飲まなかった」

 上京し、喫茶店でアルバイトを始め、モカと出会い、その味に惚れた。「学歴もないし、資格もないし、人に使われるのも大嫌い。じゃあどうするかと考えていた時、当時、小樽にはなかったコーヒー豆を扱う専門店を出せば良いかと思い、札幌の専門店で3年間修行した」

 小樽に戻り、稲穂の国道沿いに店を構えていたが、隣家からの火災で店舗が延焼。8年前に花園の自宅兼店舗で、新たに営業を再開した。

 豆にこだわったオリジナルブレンドは、強く火を通し酸味をとった上品な味わい。「入れ方がどうのとか言われたこともあったが、ベースが良ければ、コーヒーメーカーでもなんでも美味しい」

 「町の豆腐屋とか市場に来るような感覚で、小樽のお客さんが、豆焼けたかいと気軽に店を訪れ、買ってくれることが嬉しい。小樽の人だけで商売出来れば良いが、小樽市の人口減や量販店の進出などで、販路を広げなきゃいけないと考えている。インターネットは嫌いだが、食うためにはネットで売らなきゃいけないかな」

 「小6の時に作った学級新聞で、小樽が大好き小樽を離れないと書いちゃったので、それを小樽に住み続ける理由にしている。将来医者になるとも書いたが、これにはなれなかったので、うそは嫌いだから、小樽に住み続けることだけは守りたい」

 時折見せるするどい眼差しも、話すと優しい笑顔に変わる。長女の入園・入学式の時にしか剃ったことがない髭が似合うマスター。一杯400円のコーヒーが、心和む小樽時間を提供する。

bien cafe'(ビアンカフェ)

小樽市花園4-18-7
営業時間:11:00~19:00
定休日:日曜日・祝日
0134-32-8686

2008年10月のベストマスター
dal corpo(ダル・コルポ)

浅田 修久マスター

 稲穂1丁目交差点近くの国道5号線沿いにある「dal corpo(ダル・コルポ)」のシェフ(36)。家庭用ガスコンロで作る本格パスタがウリ。

 高卒後に就職した会社を約1年で辞めて、旧丸井今井の裏路地にあったバーで、バーテンダー修行。そして、バーテンダーから厨房スタッフになったことが、料理の世界に入るきっかけとなった。

 その後、イタリア料理店をオープンした友人のもとで、料理修行することに。最初は、手取り足取りで親切に教わった。「師匠が優しかったのでついつい調子に乗ってしまった。パスタの奥深さを知らないで、簡単に出来るなとなめていたことが、地獄の始まりだった」と、優しさから一転、約2年間無視され続けたという。

 修業の場を札幌に移し3年半。この間、師匠との仲は戻り、「色々相談に乗ってくれて、いまは普通に話せる」と苦笑いする。

 師匠の妹さんが店を始めるので、一緒にやらないかと誘われた。「本当はもっと修行しなきゃいけないのだけれど、また調子に乗ってしまって」

 1999(平成11)年、「dal corpo(ダル・コルポ)」を27歳でオープンした。小さな店には、小さな家庭用のガスコンロしかない。しかし、当たり前のことだけど、ちゃんと美味しいものを出すのにこだわる。こだわったパスタや、自家製のパン・デザート、ノンアルコールワインジュースが人気だ。

 「料理の基本的なところは、色々な店で修行して学んだ。応用が身に付いたのは店を始めてから。パスタの奥深さは、今でも研究している。なめてやったら大変なことになるのは経験した。麺のゆでかげんやソースのからめ方など、常に美味しさをつきつめている」

 5年前からは、ダル・コルポ青少年研究所野球部を仲間と客とで結成。「ストレスを発散させるのは汗を流すこと。今は18人くらい選手がいるが、ほとんどみんなが野球未経験者」と、雪が降るまで子供のように野球に夢中になる。

 野球部の坊主頭で、白い歯を見せて笑うマスター。

dal corpo(ダル・コルポ)

小樽市稲穂1-9-4
営業時間:ランチ10:00~15:00
ディナー18:00~22:00
定休日:月曜日

2008年9月のベストマスター
焼鳥 ささき

佐々木 和雄マスター

 花園銀座街の旧ゲームセンター横の路地裏にある焼鳥専門店。5坪(16.5平米)の小さな店に、カウンター9席が並ぶ。臈纈(ろうけつ)染めの長暖簾(ながのれん)をくぐると、その日仕込んだ肉汁たっぷりのジューシーな豚・鳥串を片手に、談笑する客の声が広がる。

 脱サラの焼鳥職人。余市出身で釣り好き。20歳の時に知人と行ったヘラブナ釣りにハマリ、たまに店を休んで積丹に行くことも。

 「年金問題が出る前だったが、年金をあてにしないで、定年のない仕事をしようと考えており、自営業しかないと思い立った。昔から焼鳥が好きだったから、やるなら焼鳥屋か居酒屋と決めていた」と、20年ほど続けたサラリーマン生活にピリオドを打ち、大好きな釣りが出来る海の街・小樽で、仕事をしようと店舗を探した。

 焼鳥を食べることはあっても、焼くことはまったくの素人。知人の焼鳥屋で、焼き方・刺し方・塩加減・タレ作りなどの基本的なノウハウを学び、あとは自己流。「札幌の料理屋でアルバイトしたことがあり、その時に調理師免許を取った。その頃から料理することは好きだった。研究に研究を重ねて、やっとここまで来た。最初は、未経験者が店をやっているのだから、焦げてしまったり、生で出してしまったりと失敗もした。それでも、来てくれるお客さんがいて感謝している。今では、美味しいと満足してもらっている」

 客に炭火が飛ばないように備長炭で作った練り炭を使い、その日仕込んだ分だけを販売するように心掛けている。「豚と鳥は、冷凍すると焼いた時に水分と一緒に旨味が出てしまうので、必ず営業当日に仕込む。ジューシーで柔らかい焼鳥をお客さんに食べてもらいたい」と、ひとつひとつ丁寧に串に刺していく。そして、友人の陶芸家が作った味わい深い皿で焼鳥を出す。そんなこだわりが、常連客に親しまれている。

 今年10月で開店3年を迎える焼鳥ささき。「身体が利かなくなるまで続ける。だって、いまさらサラリーマンに戻るたって、使ってもらえないでしょ!」と特徴ある笑い声を響かせる。サラリーマン時代に出来なかったという長髪と鬚が似合うマスター。

焼鳥 ささき

小樽市花園1-1-8
営業時間:17:00~24:00
定休日:水曜日
0134-32-7620

2008年8月のベストマスター
Trattoria Confortevole(トラットリア・コンフォルテーボル)

小林 由成マスター

 商大・商業高校に上る地獄坂にある居心地の良いレストラン“トラットリア・コンフォルテーボル”のマスター。道産食材と自家製にこだわり、身体にやさしいパスタやピザを作る。

 重い木の扉を開けるとJAZZの音色が静かに流れる。1階はカウンター席、2階はテーブル席の小さなレストラン。愛妻と作り上げた店内は、落ち着いた雰囲気が広がる。

 新潟出身の43歳。高卒後地元のレストランで、皿洗いのアルバイトを始めた。余り物や食材の端で作られる賄に感動し、洋食シェフの道へ。「両親共働きで、冷蔵庫にあるもので料理をするのが好きだったから」と話す。

 しかし、このレストランを突然退職しプータローに。2ヶ月間ぐらいダラダラしていると、親に家にいるなと言われ、求人誌でフェリーのサービス業を発見。半年の短期アルバイトのつもりが、「やりたいことがないなら、残っていろ」と言われ、17年間働いた。

 この間、本社のある小樽に住居を移したことで、小樽人に。「こんなに過ごしやすいところなのか」と小樽を再確認。小樽の女性と結婚し、子供も授かり家族が出来た。船に乗っていると子供とも離れる期間が長く、「家族と離れるのが寂しかった。奥さんはデザートを作るのが好きだったから、二人で小さい店でもやろう」と店舗探しを始めた。

 「堺町通りで探していたが家賃が高く、中心市街地にも中々良い物件がなかった。たまたま、今の場所が見つかって決めた」と、店舗探しに2年を要し、2005年10月にオープン。「最初は、口コミで
お客さんが来てくれるだろうと甘く考えていた。雑誌などで掲載してもらってようやく情報が広がり、3年でやっと口コミで来てもらえるようになった」と苦笑い。

 黒のエプロン、バンダナ、顎鬚がトレードマークだが、「黒が特に好きとかではなく、白だとトマトソースが付くから」と単純な理由だが、こだわりの全てを料理にかける。「最初から手作りをコンセプトにしていた。食材は外産のものを使っていたが、道産食材と食べ比べると全然違うので、コストはかかるけれど、美味しいものを提供したいから」と微笑む。

 夫婦のやさしい雰囲気が漂う居心地の良いレストランで、素材の味を大切にするマスター。夢は“店から小樽の景色が見渡せるところに移りたい”

Trattoria Confortevole(トラットリア・コンフォルテーボル)

小樽市富岡1-20-1
営業時間:
ランチ11:30~15:00(Lo 14:30)
ディナー17:30~22:00(Lo 21:00)
定休日:不定休(月3回程度)

2008年7月のベストマスター
BY'ss(バイズ)

本間 勉マスター

 洋服選びの後のコーヒータイム。お酒を飲みながらの洋服談議。静屋通りにあるSELECTSHOP&BAR 「BY’ss(バイズ)」には、男女の笑い声が絶えない。

 小樽で育ったマスター(36)。高校性の頃は、喫茶店など多くの店が並んでいた静屋通りや駅前周辺で遊んだ。21歳の時に、知人とバーを共同経営することになった。8年間働いたが、結婚を機にサラリーマンに転職。

 得意分野を生かせる店を作りたいと、洋服屋で働いていた妻・由佳さんと、バーと洋服屋を併設した店をオープンすることに。資金稼ぎのために静岡の工場で10ヶ月間働き、小樽に戻って店舗探しを始めた。元キャバレー現代の斜め向かいの喫茶店が空き店舗だった。「高校生時代に遊んでいたこの場所でやりたい」と決め、開店準備に半年をかけ、昨年8月にオープンした。

 店内に入ると、イギリスの世界的ロックバンド“レッド・ホット・チリペッパー”の男4人が裸で立つポスターが飛び込んでくる。そのポスターの手前にあるカウンターで、マスターとママの2人が呼吸を合わせて接客する。オープン1年で、すでに常連さんもついた。二人が作る親しみのある空間では、世間の話題が広がり、賑やかな笑い声が上がる。

 店名“BY’ss”は、家族の頭文字からつけられている。Bは勉(ベンちゃん・つとむ)、Yは由佳、ssは子供2人。妻と二人三脚で切り盛りし、アットホームな雰囲気が醸し出されている。

 飲み物メニューは、ソフトドリンク200円、ビール・カクテル400円。ランチは500円(メイン・ホットサンド・ヨーグルト・ソフトドリンク付)。店内に並べられている洋服は、オリジナルリメークジーンズ6,900円、ワンピース・チュニック3,900円など。

 メガネの奥からの優しいまなざしと白い歯がこぼれる笑顔が魅力的なマスター。

BY'ss(バイズ)

小樽市稲穂2-16-11
営業時間:10:00~22:00
定休日:日曜日
0134-31-5757

2008年6月のベストマスター
水琴窟(すいきんくつ)

佐藤 正晃マスター

 菓子工場だった古い家に暮らしながら、カフェ・宿・足もみ・ものづくり・デザインを行う。「1人のお客さんとの出会いから、何か蠢き(うごめき)ができて、大きなものへと変わると思う」と、人との出会い・交流を大切にしている。

 古民家カフェと宿「水琴窟(すいきんくつ)」をオープンして、6月でちょうど1年。カフェは、樽っ子や観光客との出会い・交流の場。宿は、北海道に来る旅人が安く泊まれるように併設。10畳と6畳の和室(1泊3,000円)を用意している。

 故郷の京都で暮らす中、「中国伝来の茶道や書、建築をつきつめたい」と、中国・上海に1年留学。その間、シルクロードを旅し、町ごとにある小さな宿に感動。ひとつの町を見て歩き、そしてまた次の町へと旅を続けた。

 帰国後、中国で出会った友人を訪ねるため、初めて北海道に足を踏み入れた。来道した日に舞っていた初雪に心動かされ、一冬をこの北の地で過ごすことにした。札幌の出版・編集社に就職し、フリーカメラマンやデザイナーなど、様々な人と触れ合い、刺激を受けた。編集長と制作プロダクションを立ち上げようと小樽に移り住み、フリーのデザイナーへ。

 「組織というグループの中で物を創るのではなく、色々な人とのつながりで、クリエイティブなことをしたい。人それぞれの個性を合わせて物を作りたい」と、人と巡り合う場所を作るためにカフェと宿をオープンした。

 現在、足もみや太極拳による健康法に夢中。あんま・はり・きゅう師資格取得のため、目下勉強中。カフェのサービスの一環で足もみを行っている。1時間700円と安くて気持ち良いことから、同店一番の人気メニューになっている。「肩コリや腰痛など、体の調子が悪いところは、足をもめば良くなる。体の疲れを取り除くと、すごく感謝され、やりがいがあると感じている。改めて中国の東洋医学がすごいと実感させられた。中国に行ってから10年、ようやく中国とのつながりを感じている」

 「山・海の自然があり、札幌という都会にも近い小樽で過ごし、色々な人と出会って考えて共鳴しあって、よその人が新鮮に感じる小樽の“当たり前”を世界に発進したい」と、人とのつながりを大切にするマスター。

水琴窟(すいきんくつ)

小樽市山田町3-18
営業時間:8:00~20:00
定休日:毎週火曜と満月の翌日
0134-27-3270

お店のHP
2008年5月のベストマスター
PRESSCAFE(プレスカフェ)

稲葉 圭計マスター

 北運河の旧渋澤倉庫の一角にあるPRESSCAFE(プレスカフェ)。札幌から小樽へ移転し、今年で2年目。ひげが似合うマスター。

 日高出身の51歳。実家が転勤族で、道央道東を回り、大学進学のため札幌へ。卒業後も札幌で就職。建築内装や飲食業などの企業に勤めた。30代の時に、趣味の1900年代イギリス製ヒストリックカーを3台所有。保管する場所を札幌月寒に借りたところ、いつのまにかカフェにしていた。バブル崩壊とともに勤めていた会社は倒産し、カフェ経営で生きていくことを決意した。

 ヒストリックカーが並ぶ店内には、車と車の間にテーブルを配置し、客は、クラシックカーを鑑賞しながら、コーヒーも楽しみ時を過ごす。車の販売・整備関連業務も行っており、「違法改造スポーツカーを作っていて、お茶も飲める店だと誤解
されていた」と笑って話す。ちょいワル風の渋い顔から、白い歯がこぼれる。オープンから16年、突然の立ち退き話で、札幌月寒の店に幕を下ろした。

 1年後、「小樽で、築111年の石造り倉庫を使ったカフェが閉店したので、使わないか」と、知人から連絡が入った。カフェをまたやる気はなかったが、せっかくのお誘いだから見てから断ろうと足を運んだ。店内に足を踏み入れると、店のイメージがすぐに沸いてきて、その場でやりますと即決。一気に開店準備を進め、1ヵ月後の2006(平成18)
年5月にオープンした。

 高い天井を持つ広々とした空間。札幌の店と変わらず、お気に入りのヒストリックカーを展示。大きな窓からは、小樽運河に浮かぶボートと歴史的建造物が見える。自慢のオリジナルインドカリーやスパゲティ、スウィーツを提供。「小樽の若い人は小樽に関心がなく、どちらかというと札幌に目が向いている。こんな素晴らしい場所なのに本当にもったいない。何十年かかるか分からないが、小樽が誇る店と言われるようになりたい。お客さんが来ないからって、早い時間に店を閉めず、夜の10:00まで営業している。地元の人でびっしりになることもある。もっと地元の人たちが来てくれるような店にしたい」と語る。

PRESSCAFE(プレスカフェ)

小樽市色内3-3-21 旧渋澤倉庫内
営業時間:11:30~22:00
定休日:年中無休
0134-24-8028

お店のHP
2008年4月のベストマスター
かくてるの森 みちくさ

村井 祐三マスター

 手作りの内装でほっとひと息つける癒しの空間が花園繁華街にある。カクテルはもちろんノンアルコールも豊富に揃え、誰でも気軽に立ち寄れる店「かくてるの森 みちくさ」 のマスター(31)。

 木材でアレンジされた店の扉を開くと、ずらりと並ぶ何十種類ものリキュールが目に入る。ブラウン管テレビから白黒映画が流れ、次第に心地良いJAZZが耳に入ってくる。マスターのコンセプトは“気軽に立ち寄れる店”、“ほっとひと息つける癒しの空間”。

 名古屋で生まれ育ち、工業高を卒業して自動車整備士として働いたが、ものづくりがしたいと、ガラス職人を目指して地元の工房へ。都会から離れて山や海などの自然に触れたいと、ガラスの街・小樽の地へ足を踏み入れた。3年間修行を積んだが、「工房の現実を見て、僕がガラス職人だけで食べていくのは難しい」と挫折。

 気分転換も兼ね、日本の北から南へ大移動。沖縄のリゾートホテルでバーテンダーとして腕を磨いた。9ヶ月後、また小樽に戻り、今度はホテルマンとして働くことになった。これらの経験から、自分のスタイルで店をやりたいと、残ってる貯金で、昨年10月に店をオープン。

 ぬくもりのある空間作りを目指して、木材をメインに内装をリフォーム。床に木の板を張り、リキュールを並べる棚のガラスを取り除き、外壁の看板も手作りで仕上げた。「バーと言ってしまうと固いイメージがあるので、店の名前をひらがなにして、気軽に入れるように工夫した。カクテルを身近に感じてもらいたいから、お客さんの要望に合わせて色々なカクテルを作る」

 大好きな小樽が、年々衰退化していると危惧し、小樽を活性化させるために飲食店オーナーたちが集う『TEAM
OTARU Knights』の一員になった。

 「若者がどんどん離れているので食い止めなきゃいけない。若い人たちが小樽に残ってくれたり、移り住んでくれるような街にしなければいけない。小樽は好きだけど、生活するには厳しいからと札幌に引っ越す人もいる。スナック店が多くある花園で、自分の店をオープンすることに少し抵抗はあったが、小樽の中で一番活気づかなきゃいけない場所だからと思って、ここで店を開くことを決めた。スナックだけじゃなく色々な店があった方が、お客さんが足を運んでくれると思う。今の若い人たちは、外で飲まないで家で飲むことが多い。そのまま大人になってしまうと、外でのお酒の飲み方・楽しみ方や、人とのコミュニケーションの取り方がずっと分からないままになってしまうので、今のうちに外に出てもらえるような取り組みが必要だと思う」と熱く語る。

 少しでも花園に足を向けてもらうため、ノンアルコールも豊富に揃えて昼も営業している。「若い人と高齢者との交流の場にもなれば」と積極的に取り組む。

 小さな顔にハンティング帽を被り、鼻下のヒゲが似合うマスターは、これからもずっと小樽に住み、小樽の活性化を目指す。

かくてるの森 みちくさ

小樽市花園1-11-21
営業時間:14:00~18:00、20:00~3:00
定休日:第2・4水曜日
0134-24-3793

2008年3月のベストマスター
酒房ビストロ 九年母

前田 孝マスター

 コーヒー付きの1コイン(500円)ランチを提供する、酒房ビストロ「九年母」(くねんぼ)のマスター(53)。

 ハンバーグステーキセットやカレーライスセットなど、昼のランチセットメニューはどれも500円。小樽人の財布の味方だ。

 北照高を卒業し、経済を学びに千葉県の大学へ。昼は大学で勉学に励み、夕方はイトーヨーカドーの社員としてバリバリ働き、大学を中退して正社員になった。

 実家が新築したからと、小樽に帰って来て、タンシチューやビーフシチューが有名な高級洋食レストランで料理の修行を始めた。最初は出前ばかりだったが、1年程で鍋を持ち、本格的な料理修行に。当時は、銀行やホテルの重役などが食べに来ており、来る日も来る日も鍋を振った。

 30歳の時に料理長になったが、2年後にレストランが閉店。その後、他の店で勤務し、4年半前から「九年母」のマスターに。飲食店を経営するオーナーの希望で、名前を変えずに営業している。「柑橘類の九年母の実のように、ゆっくり丁寧に実を結んで、近隣の人に店の名が広がるように」という意味があるという。

 店のメニューは、500円のランチが有名で、昼時の店内はいつも賑わう。ランチだけではなく、夜のセットメニューも500~1,000円と格安だ。常連客からは、「こんなにうまいのに500円か、安すぎないかい」
と聞かれ、「自分がランチを食べるなら、500円しか出したくないから」とはにかむ。

 全日本司厨士協会小樽支部の支部長も務め、多忙な中、「息子3人育てて、それぞれにやっているので、自分たちが食べられるだけでいい」とママと二人三脚で、今日も手頃な価格で料理を提供する。

酒房ビストロ 九年母

小樽市花園1-11-13
営業時間:11:30~15:00、17:00~22:00
定休日:火曜日
0134-33-8383

2008年2月のベストマスター
らぁめん ウポポ

森熊 一夫マスター

 ほのかな海の香りがする店内。豚肉・鶏ガラ・道産野菜と、新鮮な魚介類を合わせた風味豊かなスープにこだわる「らぁめん
ウポポ」のマスター(34)。

 小樽生まれ。夏はサーフィン、冬はスノーボード、自然大好きな超アウトドア派。キリリとしめた手ぬぐいがシンボルマーク。

 実家は転勤族で、小学校1年生の時に小樽を離れ、道内を点々とした。大卒後に就職した会社を10年で辞め、香港までの片道切符を手に、西遊記のように天竺を目指して旅立った。バスや列車の陸路でアジアの10カ国以上を回り、途中で中国の少数民族と出会い、帰国後は、北海道のアイヌの祭りや文化に触れた。この影響で、店名にはアイヌ語でウポポ(唄)とした。

 中学校の文集に「ラーメン屋になりたい」と載せるほどのラーメン好きなマスターは、小樽運河浅草橋街園前の出抜小路に空き店舗があることを知り、オープンを決意。しかし、ラーメン作りの経験のないまま、オープンを決めたという。飲食店での経験は、スープカリー屋でのアルバイトのみ。札幌のラーメン職人のもとへ弟子入りし、店作りとともにラーメン道の修行に入った。師匠に教えてもらった基本の作り方に、自分でアレンジを加えた。

 開店当日、親戚に試食をしてもらうと、「前に食べた味と違う。こんなのお客さんに出せるか」と一喝され、その一言から開店を一時延期。「あの一言がなければ、今のようにラーメンの研究をしなかったかもしれない」と話す。

 最初はしょうゆラーメンだけだったメニューが、オープンから1年半、今ではみそ・塩味も追加。長時間煮込んだ豚骨・鶏ガラに、利尻昆布や秋刀魚など7種類の魚介類を合わせたスープが自慢。こだわりは、一般的な食材を使っているが、手間をかけて美味しくしていることと、しょうゆ・みそ・塩味で麺の種類を変えていること。

 「小樽の水は最高に良い。それが最大の武器にもなっている。観光地で営業しているが、だんだんリピーターも多くなってきているので、本当に感謝している。北海道のラーメンが中国やシンガポール、ニューヨークに進出しているので、いずれは海外進出もしたい」と夢は大きい。

らぁめん ウポポ

小樽市色内1-1-17 出抜小路1F
営業時間:11:30~15:00、17:00~20:30
定休日:火曜日
0134-34-4141

2008年1月のベストマスター
珈琲工房

沖野 正則マスター

 住ノ江の神仏湯の並びにある「珈琲工房」のマスター。

 店の扉を開くと、珈琲の香りが身体を包み、珈琲党にはたまらない空間とゆったりとした時間が広がる。樽っ子のマスターは、長橋小、末広中、小樽工業高を出て、FAXや無線の技術職として、札幌駅前の読売新聞社に勤める。

 この札幌で、その後の人生を決定付ける珈琲との出会いを経験。19才の頃で、その頃は珈琲を飲まなかったが、たまたま入った珈琲店で、珈琲に開眼。その運命的出会いを感じ、自ら求めて珈琲の道に進むことになったと言う。

 小樽の静屋通りにあった珈琲店で9年間の修業を重ねた後、現在地に「珈琲工房」を開店。今春で満20周年を迎える。店には、ドイツ製の焙煎器が据えられ、閉店から深夜まで、この釜につきっきりで、13種類の豆と格闘する。

 豆を煎るには、他所に気が行かないように集中力を高めた態勢を取らないと、うまく焼けないという。焙煎した3種類のブレンドコーヒーやウインナコーヒーがお勧めだ。

 珈琲を飲みながらの客との珈琲談義は尽きることがない。豆の宅配にも力を入れ、新鮮な香りと味を届けている。

 マザー・テレサを尊敬するクリスチャンでもあり、「ここまで来れたのは、神のおかげでありがたい」と感謝の心を忘れない。珈琲道一筋、今年で50歳の働き盛りの珈琲マスター。

珈琲工房

小樽市住ノ江1‐5‐2
営業時間:10:00~19:00
定休日:第一日曜日
0134‐23‐1633(兼FAX)